この研究のポイント
実際の刑事捜査データを分析した結果、目撃者が「高い自信」を持って容疑者を特定した場合でも、8分の1(約12.5%)は明らかな誤認識別だったことが明らかになった。この研究では、捜査官が誰が容疑者かを知らない「ブラインド方式」で面通しを行った際のデータをメタ解析している。実験室研究では、容疑者への偏見の程度によって、高い自信での誤認率が0%から40%まで変動することも示された。
どんな研究だった?
本研究は2025年に発表されたメタ解析で、実際の刑事捜査における目撃者の面通し(ラインナップ)データを分析対象とした。特に、面通しを実施する捜査官が誰が容疑者かを知らされていない「ブラインド方式」で行われた事例に焦点を当てている。分析では、目撃者が「高い自信」を報告した識別について、その正確性を検証した。加えて、実験室で行われた目撃証言研究のデータも併せて分析し、容疑者への偏見が誤認率に与える影響を測定している。誤認の判定には、明らかに無実である「フィラー(ダミー人物)」を誤って選んだケースを用いた。
なぜこの結果になったと考えられているか
研究者らは、高い自信を持った目撃証言でも誤りが生じる原因として、「容疑者への偏見」の影響を指摘している。具体的には3つのタイプの偏見が挙げられている。第一に「外見に基づく疑い」で、容疑者が他のフィラーと比べて目撃者の記憶により近い外見を持つ場合。第二に「ソーシャルメディアによる汚染」で、面通し前に容疑者の写真や情報を見てしまうケース。第三に「誤った既視感」で、以前どこかで見たことがある人物を犯人と混同してしまう現象である。これらの偏見は、目撃者の主観的な自信を高める一方で、実際の正確性を損なうと考えられている。また、過去の冤罪事例では初回面通し時の自信レベルがほとんど記録されていないため、実際の捜査データの方がより実態を反映していると論じられている。
読み解く上での注意
本研究はメタ解析であり、対象となった個別研究の質や条件にばらつきがある可能性がある。また、8分の1という誤認率は「フィラーを選んだ」明確な誤りのみをカウントしており、真犯人以外の無実の容疑者を選んだケースは含まれていない。つまり、実際の誤認率はさらに高い可能性がある。実験室データと実際の捜査との間には、記憶の鮮明さやストレス状況などの違いもあり、結果を一般化する際には注意が必要である。
日常への示唆
この研究は、「自信」と「正確さ」が必ずしも一致しないことを示している。私たちは日常でも「確信している」記憶が実は曖昧だったという経験をすることがある。特に人の顔の記憶は、後から見た写真やSNS情報、似た人との混同などで容易に変化する可能性がある。重要な場面で記憶に頼る際には、事前に他の情報に触れていないか、似た状況や人物と混同していないかを振り返る習慣が役立つかもしれない。また、他者の証言を聞く立場でも、話者の自信の強さだけで判断せず、記憶の形成過程や外部情報の影響を考慮する姿勢が求められるだろう。