この研究のポイント
2024年に発表されたこのシステマティックレビューでは、メンタルヘルス研究における「共同制作(co-production)」で権力をどう分け合うかを扱った9本の論文を分析した。結果、研究現場では階層的なシステムが根強く、研究者と当事者(lived experience)の間で権力を対等に共有することは理想どおりには実現されておらず、複雑で継続的なプロセスであることが明らかになった。
どんな研究だった?
英国の国立保健医療研究機構(NIHR)は2018年に、研究者とメンタルヘルスの当事者が対等に協力する「共同制作」のガイダンスを発表し、「権力の共有」を重要な原則として掲げた。本研究は、そのガイダンス公表後にメンタルヘルス研究の共同制作における権力共有について何が分かったのかを明らかにするため、CINAHL、Embase、PubMedの3データベースで質的研究または混合法研究を検索し、9本の論文を対象にテーマ統合を行った。論文は2名の査読者が独立してスクリーニングし、質的研究用の批判的吟味ツール(CASP)で評価された。
なぜこの結果になったと考えられているか
分析の結果、3つのテーマが抽出された。第一に「より強力なシステムに対抗しながら権力を分け合う闘い」、第二に「関係性を通じたエンパワーメント」、第三に「旅路は荒々しいが、それは本来スムーズであるべきではない」である。権力は特に研究が行われる階層的なシステム内で広く浸透しており、研究者と当事者の間には構造的な力の差が存在すると考察されている。一方で、相互の尊重と信頼に基づく関係性が権力共有を促進する可能性があることも示された。ただし、真に意味のある変化をもたらすには、研究資金提供者や大学、医療機関といった組織レベルでの取り組みが必要だと著者らは指摘している。
読み解く上での注意
このレビューは9本の論文のみを対象としており、メンタルヘルス研究における共同制作の全体像を網羅しているわけではない。また、対象論文は主に英国の研究が中心と考えられ、他の国や文化圏では異なる結果が得られる可能性がある。さらに、「権力の共有」自体が抽象的な概念であり、測定や評価が難しいため、定量的な証拠には乏しい点にも留意が必要である。
日常への示唆
この研究は、研究現場だけでなく職場や地域活動など、異なる立場の人が協力する場面すべてに通じるヒントを与えてくれる。形式的に「参加」の機会を設けるだけでは、実質的な権力の共有にはつながらない。信頼関係を育み、対話を重ねるプロセスそのものに価値があり、それは簡単ではないが本来そうあるべきだと研究は示している。また、個人の努力だけでなく、組織や制度の側が変わる必要があるという指摘は、私たちが所属するコミュニティの仕組みを見直すきっかけになるかもしれない。