この研究のポイント
運動介入に関する40本の論文をレビューした結果、「エンパワメント」を明確に定義した介入は1本もなく、直接測定した研究も皆無だった。エンパワメント理論を用いていたのは全体のわずか22.5%(9本)で、15%(6本)は理論的枠組みすら欠いていた。多くの研究(72.5%)で身体活動は増加したものの、それが「主体性の向上」によるものかは不明である。
どんな研究だった?
2025年に発表されたこのスコーピングレビューは、PubMedなど5つの電子データベースから、ランダム化比較試験または準実験デザインの運動介入研究を系統的に検索した。対象は子どもから成人まで幅広く、何らかの「エンパワメント戦略」を含む介入を実施した研究に限定。1994年以降の英語論文で、質的研究は除外された。最終的に40本の論文が分析対象となり、エンパワメントの定義、測定方法、理論的枠組み、実施戦略、身体活動の変化が抽出・整理された。
なぜこの結果になったと考えられているか
論文では、エンパワメント理論の多次元的な枠組みと、実際に参加者を「エンパワーする」ことを目指した介入との間に大きな乖離があると指摘されている。多くの介入(55%)が教育的アプローチを採用していたが、これは知識提供に重点を置くもので、参加者が運動選択に対する自信やコントロール感を高めるプロセスを直接支援するものではない可能性がある。また、身体活動の測定も67.5%が主観的な方法(自己申告など)に依存しており、客観性に課題があった。理論と実践の不一致が、エンパワメントという概念の曖昧さを生んでいると考えられている。
読み解く上での注意
この研究はスコーピングレビューであり、個々の介入の効果サイズや質を統計的に統合したものではない。また、40本という限られた数の論文から得られた知見であるため、すべての運動介入研究を代表するわけではない。さらに、「身体活動が増加した」という結果も、多くが自己申告に基づくため、測定バイアスの影響を受けている可能性がある。エンパワメントが測定されていないことは、それが効果に寄与していないという意味ではなく、単に測定されていなかったという事実を示すにすぎない点に注意が必要である。
日常への示唆
この研究は、運動を続けるには単に「知識を得る」だけでは不十分かもしれないことを示唆している。自分で運動を選び、コントロールしているという感覚――つまり「主体性」――が、長期的な運動習慣には重要である可能性がある。研究者らは運動エンパワメントを「運動の選択に対する自信とコントロール感であり、持続的な運動と充足感につながるもの」と定義することを提案している。日常では、誰かに「やらされる」運動ではなく、自分が楽しめる方法や時間帯、仲間を自分で選ぶ姿勢が、運動を続ける鍵になるかもしれない。ただし、この提案はまだ研究途上であり、今後の検証が待たれる。