この研究のポイント
インターネットの問題的使用(PUI)傾向のある人は、衝動を抑える課題中に左中前頭回と右上頭頂小葉という脳領域の活動が高まる傾向が見られた。この研究は23件の論文(PUI傾向のある人548名、健常者537名)を統合したメタ解析で、これらの脳領域が実行制御やトップダウン調整を担う領域であることも明らかにした。さらに、この活動パターンがセロトニントランスポーター(5-HTT)の分布と負の関連を示し、セロトニン系が関与する可能性も示唆された。
どんな研究だった?
この研究は2025年3月までに発表された論文を対象とした系統的レビューとメタ解析である。研究チームはPubMedとWeb of Scienceから742件の候補論文を検索し、最終的に23件の横断研究を解析対象とした。これらの研究はいずれも、ネット依存傾向のある人と健常者が抑制制御課題(衝動を抑える課題)を行っている際の脳全体の活動を比較したものである。合計で1,085名(PUI群548名、健常群537名)のデータが含まれ、各研究から報告された脳活動の座標を抽出し、ALE(Anatomical Likelihood Estimation)法という統計手法で空間的な収束パターンを分析した。
なぜこの結果になったと考えられているか
左中前頭回と右上頭頂小葉は、実行機能やトップダウン調整を司る重要な領域である。これらの領域での活動増加は、ネット依存傾向のある人が衝動を抑える際に、より多くの神経資源を動員する必要がある可能性を示唆している。つまり、同じ課題でも健常者より脳が「頑張っている」状態と考えられる。また、神経伝達物質の分析では、この活動パターンがセロトニントランスポーターの分布と負の関連を示したことから、セロトニン系の神経伝達が抑制制御の変化に関与している可能性が考えられている。セロトニンは気分や衝動性の調整に関わることが知られており、この系統の機能変化が背景にあるかもしれない。
読み解く上での注意
この研究は横断研究のメタ解析であるため、因果関係は示せない。つまり、ネット依存傾向が脳活動の変化を引き起こしたのか、もともと脳活動パターンが異なる人がネット依存傾向を持ちやすいのかは不明である。また、ネット依存にはゲーム、SNS、動画視聴など様々なタイプがあるが、この研究ではサブタイプごとの違いまでは明らかにされていない。さらに、対象者の多くが特定の地域や年齢層に偏っている可能性もあり、結果をすべての人に当てはめることには慎重さが必要である。
日常への示唆
この研究は、ネット依存傾向と脳の抑制制御機能に関連があることを示唆している。衝動を抑えることに普段から苦労していると感じる人は、自分の脳がより多くの努力を必要としている可能性を知ることで、自己理解が深まるかもしれない。また、セロトニン系が関与する可能性が示されたことから、規則正しい生活リズムや適度な運動など、セロトニン機能をサポートすると考えられている生活習慣を見直すきっかけにもなる。ただし、これは治療法を示すものではなく、困りごとがある場合は専門家に相談することが重要である。