この研究のポイント
2024年に発表されたこの研究では、152件の脳画像研究(患者を含む研究108件)を統合的に解析した結果、統合失調症、双極性障害、大うつ病性障害、強迫性障害、注意欠如・多動症(ADHD)、自閉スペクトラム症(ASD)という6つの精神疾患すべてで、同じ脳領域の活動が低下している共通パターンが見出された。さらに因子分析により、これら6疾患が3つのペア(統合失調症とASD、うつ病と双極性障害、ADHDと双極性障害)にグループ化できることが示された。
どんな研究だった?
この研究は、PubMedをはじめとする7つの学術データベースから、精神疾患患者と健常者を比較した脳機能MRI研究を網羅的に収集したメタ解析である。対象となったのは「go-nogo課題」と呼ばれる、特定の刺激には反応し、別の刺激には反応を抑制する認知課題を用いた研究である。この課題は抑制制御能力を測定するもので、多くの精神疾患で障害されることが知られている。研究チームは活性化尤度推定法(ALE)というメタ解析手法に加え、因子分析と回帰分析を組み合わせて、疾患間の共通点と相違点を明らかにした。
なぜこの結果になったと考えられているか
論文では、6つの精神疾患すべてで同じ脳領域の活動低下が見られたことは、抑制制御という認知機能が多くの精神疾患に共通する基盤的な障害であることを示唆していると考察されている。一方で、統合失調症とASDでは左右の視床に、うつ病と双極性障害では視床、島皮質、上前頭回に疾患特有の違いが見られた点は、表面的には異なる症状を示す疾患でも、脳活動のパターンには部分的な重なりがあることを意味する。この発見は、現在の診断分類が必ずしも脳の生物学的基盤を反映していない可能性を示している。
読み解く上での注意
この研究はメタ解析であり、異なる研究デザイン、サンプル特性、MRI機器を用いた研究を統合している点に注意が必要である。また、go-nogo課題という特定の認知課題に限定された知見であり、すべての認知機能や脳活動を代表するものではない。さらに、脳活動パターンの類似性が見られたからといって、それが疾患の原因であるとは言えず、あくまで関連が観察されたという相関関係である点も重要である。
日常への示唆
この研究は、精神疾患の診断や理解に新しい視点を提供している。現在の診断基準は主に症状に基づいているが、将来的には脳画像などの生物学的指標が補助的な役割を果たす可能性がある。ただし現時点では、脳画像検査だけで診断が確定するわけではない。むしろこの知見は、一見異なる精神疾患でも共通する認知的困難さ(例えば衝動を抑える難しさ)があることを示しており、疾患ラベルにとらわれず個々の認知特性に注目する重要性を教えてくれる。精神的な困難を抱える人への理解を深める一助となる研究といえるだろう。